TARCの検査について~アトピー

2015年06月25日

今回は当院の成人アトピーの検査を紹介。TARCという検査です。

成人のアトピーは小児と違って、自分で治療をコントロールする面が強く、外用治療のコンプライアンス(医師の指導通りに外用し、定期的に通院で治療を継続すること)ができないことがあります。なかなか難しい問題だと思います。難治性で気合いを入れて治療する場合の一例を少し挙げてみます。

TARCとは?

TARCとは、Thymus and Activation-Regulated Chemokineの略で、アトピーの皮膚から過剰産生されている皮膚の炎症を引き起こす物質(正確にはアトピーの炎症を引き起こすTh2細胞というリンパ球を病変部に引き寄せるケモカイン)です。よってアトピーで症状が強く出ている場合は非常に高くなり、外用治療で皮膚が正常になってくると低下していきます。よって、治療効果や重症度の判定に有効です。自分のアトピーの重症度が数値ででてくるので、どのくらいの炎症が起きているのかを実感できます。

アトピーの皮膚は、あたかも火事のように炎症が起こっています。そして、ステロイド軟膏やプロトピック軟膏による薬物治療を行うと、一旦症状は表面上には無くなりますが、実は皮膚の下には炎症細胞が残っており、薬物治療をやめるとすぐにぶり返す状態になっています。この状態はまだTARCが高い状態です。この間は薬物を続けないといけないということです。
そしてさらに塗ると皮膚の下の炎症もおさまります。これが完全緩解です。この時、TARCが下がります。
 すなわち、皮膚の炎症は見た目だけでは判断できず、炎症が続いているかは表面上は分からないので、血液検査のTARCは非常に有効というわけです。
 TARCはアトピー性皮膚炎の方であれば保険適応となっており、とても良い指標になり当院でも計測が可能です。数値は個人差があるのでこの解釈にはまちまちですが、個人の間で炎症がある時とない時の比較するにはとても良いですよ。計測希望の方は診察時に言ってください。ただし当院にしっかり通院して適切に治療していただける方でないと計測しても意味がないですので注意を。
  アトピーの最新の治療であり学会や講演会でも推奨されている方法であるプロアクティブ療法にも活用できるので、当院でも参考にしたりしています。私が大阪の診療所にいた時も、数人がこの感じで定期的にTARCを測っていき上手にプロアクティブ療法がうまくいき、実際に寛解(ほどんど良くなった状態)するまで至った方も診ていました。一応、次項目にプロアクティブ療法をまとめておきます。

プロアクティブ療法とは?

    A:リアクティブ療法  症状が悪化したら抗炎症薬(ステロイド、プロトピック)で抑え、症状がある程度ひいた段階で中止し保湿に切り替える治療。
    B:プロアクティブ療法 :急性期治療後の皮疹が消えたつるつるの部位でも炎症が残存していると考え、週数回程度の外用薬を定期的に外用することで「より小さな炎症のうちにより少ない抗炎症薬で」治し、急性悪化を防ぎ、長期間無症状の状態を維持することを目的とした治療

Bは症状がおさまっている時でも皮膚には軽い皮膚炎があって、それを放置していると湿疹が急に悪化するので「先を見越した行動をとる」という新しい理論です。

よって、プロアクティブ療法をする際はTARCが良い指標になります。いつまで塗ったらよいか、いつ間隔開けをしたいか、というのはよくある質問ですが、この理論でいけばその回答も解決できる一つの手立てになると思っています。

※ただしこのように書くと誤解されてしまうのですが、TARCだけでプロアクティブ療法は完結しません。むしろ、皮疹の状態を参考にした上での判断が優先されます(その点は少しコツがあります。実際に受診した際に教えます。)ので、TARCの数値だけでコントロールを決めるわけではなく、むしろTARCを参考にしてうまくプロアクティブ療法を行っていく手段とすることもできると思ってください。ようは、TARCと臨床症状があまり一致しないタイプのアトピーもあるので過信していはいけない検査でもあるからです。

院長からの伝言

 ここではプロアクティブ療法の一例をあげましたが、注意してほしいのがアトピーすべての方にプロアクティブ療法でコントロールするべきかというと私はそうではないと思っています。今回は「こんな方法もあるよ」という紹介の提案であり、すべて全員がこれで行っているわけではありません。
 当院では上記のような最新のプロアクティブ療法での治療から、漢方や光線治療などあらゆる手段で、患者さんのニーズに合わせて治療していくスタンスを考えているので、どんな方でもご相談ください。当院では病気主体でみるのではなく、患者さん自身の無理のない治療方法の選択、治療目標及び満足度がまず一番と思っての治療メニューを考えていきます。
(関連項目)
アトピー
アトピー診療ガイドライン2016年
(院長記載)